書籍紹介『サイバー・エフェクト 子どもがネットに壊される』

「壊される」という表現は、けっして過激ではなく、現実を的確に表している。

書評サイトHONZ掲載の訳者あとがき(リンク)より一部抜粋します。
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著者は「サイバー心理学者」という肩書を持つ、アイルランド出身のメアリー・エイケン博士。彼女はこの新たに出現した研究領域をけん引する存在であり、本書にも最新の研究成果に加え、自らの研究や体験に基づく解説がふんだんに盛り込まれている。

(略)

とはいえ「壊される」という表現には、いささか過激ではないかと感じられる読者もおられるかもしれない。しかし、本書で取り上げられている事件や出来事からは、まさにそのようなリスクを、インターネットおよびインターネットを利用する環境が、子どもたちに突きつけていることを理解できるだろう。

そのリスクは、子どもがまだ赤ちゃんのときから始まっている。親がネットやスマホに気を取られたり、自身が親からそれをあてがわれたりするなどして、自分の意志とは無関係に「サイバー効果」の標的となるのだ。

エイケン博士はダブリンからゴールウェイに向かう列車の中で見かけた、スマホに気を取られて赤ちゃんのほうを見ようとしない女性、という印象的な光景からスタートし、この問題を解説していく。そして赤ちゃんとアイコンタクトを取ることの重要性や、デジタル端末だけに育児を任せることの危険性、身体を動かし、現実世界の中で体験を積み重ねることの大切さを説く。

日本でもいま、スマートフォンを子育てに使うことに問題はないのかという、「スマホ育児」をめぐる議論が活発になっている。ずっと面倒を見ていなければならない乳幼児の期間、一瞬でも彼らの注意を引き付け、一定の場所につなぎ止めておいてくれるデジタル端末は、親にとって便利な存在だ。私も10年ほど前に育児を経験した身であり、親世代が感じるありがたみは痛いほど理解できる。私の場合は、まだスマホタブレットが普及する前だったため、こうしたデジタル端末を使うことはなかった。しかし、子ども向けのテレビ番組やビデオなど、たった30分程度、しかもテレビの前という特定の場所であっても、子どもが「おとなしく」見ていてくれるコンテンツに大いに助けられたことを覚えている。

日本ではどの程度、子どもたちがデジタル端末に触れるようになっているのか。2017年、ベネッセ教育総合研究所が「第2回乳幼児の親子のメディア活用調査」を発表している。これは17年3月に、東京・神奈川・千葉・埼玉に住む0歳6カ月~6歳までの乳幼児を持つ母親を対象に行われたものだ。それによれば、スマホを持つ母親の割合は、既に9割以上に達している。そしてスマホに「ほとんど毎日」接する乳幼児の割合は、21.2%であり、前回調査(13年)時の11.6%から、ほぼ倍増の結果となっている。とはいえ、その使用時間について尋ねると、約7割が15分未満と回答しており、まだ「節度ある」利用が行われているようだ。

ただ、何時間までであれば、こうした「子どもたちをおとなしくさせておくための道具(本文中の言葉を使えば『シャラップ・トイ』)」を使うのが「節度ある」と言えるのか、現実世界における長期的な研究が存在しない以上、また人道的な観点からそのような研究(被験者の一方をスマホづけにし、もう一方を完全にデジタル端末から隔離するなど)を行うのが難しい以上、決定的な答えが出るのを期待することは難しい。それはネット依存や過激なコンテンツなど、子どもをめぐる他のサイバー効果についても同様だ。

だからといって、研究者は警鐘を鳴らすのをためらってはならないと、エイケン博士は訴える。技術の進歩はさらにスピードを増しており、研究はますます後れを取るようになっている。しかし現実にネットやデジタル端末から影響を受ける子どもたちがいて、リスクが存在する以上、すべての証拠がそろうまで待っていることはできない。エイケン博士はそう主張し、自らサイバー効果の危険性についてまとめたのである。

そうした態度が科学者として正しいのか、という議論もあるだろう。本文中にもあるとおり、エイケン博士自身、知り合いの研究者からさまざまな批判を浴びたそうだ。しかし本書で紹介されるリスクは、多くの研究による裏付けがあるものばかりで、けっして根拠のないアジテーションではない。つまり、現時点ではっきりしていることをベースに、科学者が普段はしたがらない「人々に警戒を呼びかける」領域にまで踏み込んだのが本書であり、それが本書の最大の魅力となっている。

また彼女は、テクノロジーがもたらす恩恵を全否定しているわけではなく、それが育児や子どもの発育にプラスになる可能性についても認めている。そのうえでテクノロジーの危険性に目を向けることを呼びかける本書は、プラス面ばかりを取り上げがちなインターネット関連の書籍の中で、別の視点を提供して一定のバランスを保つものになるだろう。

ここでエイケン博士の活動について、あらためて紹介しておこう。彼女が専攻したのは司法心理学だが、現在はその肩書に示されているように、「サイバー心理学」を研究テーマとしている。エイケン博士はサイバー心理学を「新しい技術が人間の行動に及ぼす影響の研究」と定義し、携帯電話からサイボーグまで、ありとあらゆるものが研究対象になるとしているが、主に彼女が注目しているのが、本書のテーマでもあるインターネットと人間の関係だ。その研究成果は高く評価され、世界各地の法執行機関への協力に役立てられている。LAPD(ロス市警)に同行して、犯人逮捕の瞬間に立ち会った経験まであるほどだ。そうした実務サイドからの信頼を寄せられていることも、彼女の業績の確かさを裏付けるものだろう。

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鳴海伝治