育児に関係するホルモン~オキシトシン

以下、リンクより転載。

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 悲惨な児童虐待死の報道を目にすると、心が痛みます。子どもをたたいたりする身体的虐待、子どもに性的な行為を強要する性的虐待ばかりでなく、大声で脅したり、きょうだいへの虐待や夫婦げんかを見せつけたりする心理的虐待や保護の怠慢、養育の拒否・放棄など児童虐待の姿は多様です。児童相談所での相談件数も年々増え、2017年度で13万件を超えています。

 一方で、子育て経験がある女性なら誰しも子育て中にイライラしたり、気分が落ち込んだりしたことがあるでしょう。それには理由があります。妊娠中ふんだんに分泌されていたエストロゲンプロゲステロンという女性ホルモンが出産と同時にガクンと減ってしまうのです。それは、一気に更年期が来たのと同じくらいドラスティックな変化です。ただ興味深いことに、女性ホルモンが減少する前後に急速に分泌されるホルモンもあります。

 オキシトシンというこのホルモンは、長年子宮を収縮させ、母乳分泌を促進するホルモンとされていましたが、その後、男性にもあることが分かりました。そして近年、育児行動に関係する作用もあるという証拠がたくさん報告されています。米国のグループは、ネズミの脳にオキシトシンを作用させると縄張りを解消して家族を形成することを発見しましたし、東北大のグループはオキシトシンが全く作用しないネズミの行動を観察すると、オスは攻撃性が増し、メスは育児行動を全くしないということが分かりました。ヒトを対象にした研究では、オキシトシン投与によって悪夢を忘れられたり、コカインよりも高い多幸感が得られたり、心が寛大になったりしたと報告されています。

 これらの学術的成果はヒトを含めた生物の育児行動がオキシトシンによって、ある程度規定されている可能性を示しています。僕は子どもを虐待する親はオキシトシンの感受性の障害という病気かもしれないと考えることがあります。もし病気ならば、彼らを治療することができるようになるかもしれません。

 虐待をした親は「しつけのつもりだった」とか「自分もそうやって育てられた」と言い訳します。事実、虐待された経験のある親が子どもを虐待する「世代間の連鎖」があるとされています。とすれば、子育て上の障害は遺伝するのでしょうか? 僕はそうは考えません。しっかり愛情を注がれた子どもは、たとえ乳児院で育てられていてもオキシトシンがたくさん出ているという報告があります。世代間の連鎖の解消には、愛情たっぷりの環境で子どもが育つように介入することが有効だと考えます。

 老いも若きも、男性も女性も積極的に子育てにかかわり、子どもにたっぷり愛情を注いでください。そうすれば悲しい記事は減るかもしれません。なにより、子どもに接することで皆さんの脳内にもオキシトシンが分泌され、幸せになることは科学的に立証されているのですから。

 

 

 

鳴海伝治