裏目に出やすい「背中を押す」行為~良かれと思っての「後押し」が相手のやる気を萎えさせる(3)

〇 いくつになっても感動する「できない」を「できる」に変える喜び

 人間、得意不得意は確かにある。得意なことは他の人よりも上手に成し遂げ、不得意なことはほどほどでしかできないかもしれない。けれど、「背中を押す」ことをされず、自分のペースで「できない」を「できる」に変える作業を続けられた子どもは、あるいは大人は、持てる能力を存分に引き出すことができる。自分の能力がどんどん拡張するから楽しく、楽しいから気力も湧く。次々に挑戦したくなる。

 筆者は以前、PHP研究所『のびのび子育て』(2019年4月号)に寄稿を依頼されたことがある。戻ってきた原稿に付されていたイラストは当初、「見守ってるよ」という吹き出しがあり、子どもを後ろから眺めるものだった。
 
 私は、イラストの修正をお願いした。従来の子育て本、部下育成本では、「背中を押す」や「見守る」は、前向きな行為として受け取られている。しかし私には、自分のペースで挑戦することをかき乱される無理強いの一種のように感じられた。そこで、イラストを完全に真横に並ぶ形に修正し、かつ、吹き出しは「一緒にいるよ」に変えてほしいと願い出た。希望通り、とてもかわいらしく、私の意を呈したイラストに仕上げてくださった。

 人間は、いくつになっても、自分の能力を拡張したいと願っているし、そのことで周囲の人に驚いてほしいと願っている。しかし周囲の目が成長を急かすものだったり、他者と比較して能力が低いと見下すものであったり、できなかったことができても「それがどうした」と小ばかにされたりすると、諦めてしまう。

 筆者はこれまで、スタッフにも、学生にも、そして子どもにも、「横に並ぶ」ように意識した。不安に感じているなら、無理強いはせず、ただ横にいる。前に進もうとしたら、ニッコリ笑って「おお」と応じ、一緒に前に進む。何かひとつ克服したら、ハイタッチして喜ぶ。それを繰り返すと、「できない」を「できる」に変えることの楽しさを知り、挑戦意欲にドライブがかかる。

〇 介護でも「横に並ぶ」ほうが好循環を生む

 Dreams Come Trueに「サンキュ」という歌がある。失恋した主人公に特に声をかけるのでもなく、ただただひたすら、横に並び、一緒にいてくれる友人の姿を描いている。

 筆者は、この歌の情景が、人を勇気づける最高の姿勢を示しているように思う。横に並びながら、同じ空間、同じ時間を過ごす。不安になれば引き、前に進んだら前に共に進む。いくつになっても、最も勇気づけられるのがそうした姿勢ではないかと思う。

 誰しも、どんな分野に対しても、その人なりのペースではあるが、果敢に挑戦する意欲は持っているものだ。もしそれが失われてしまったとき、親や指導者がそれを取り戻させようと思うのなら、「横に並ぶ」、そして「一緒にいる」ことが、最高の伴走の方法ではないかと思う。

 この心構えは、恐らく介護の分野でも同じだ。ユマニチュードという、近年注目されている技術がある。

 介護の世界では、効率よく入浴させたり食事をさせたりするために、どうしても老人の都合に合わせてできないことがある。しかしそうすると、老人は不安に思い、背中を押されることに恐怖を覚え、嫌悪感を持ち、やりたがらなくなる。ますます介護をしにくくなる悪循環に陥ることもあるようだ。

 ユマニチュードは、介護されるお年寄りの気持ちが湧いてくるのを「横に並ぶ」ことで促す技術だ。すると、非常に手のかかっていたお年寄りがニコニコしながら、いままでやろうとしなかったことを、促されもしないのにやろうと気力を振り絞るようになる。

「背中を押す」よりは、横に並び、寄り添うことの方がずっと効果的なようだ。子どもも大人も老人も、同じ人間。同じ心理機制を備えるらしい。そうした心理的な面を知悉した上で、部下育成を心がけてみてはいかがだろう。

 

 

 

津田大照