知っていますか?卵子の秘密...700万個の卵子は加齢と共に老化する 日本で体外受精が増え続けるワケ

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性や生殖の知識が最低レベルの日本

「そんな大事なこと、もっと早く教えてもらわないと困ります。どうしたらいいんですか?」

これは毎日のように繰り返されてきた40代の初診の不妊患者さんと私の外来でのやり取りです。「卵子は胎児のときに作られていて、だんだん減っていき、20歳の時は卵子も20歳。40歳になると、卵子も40歳で、妊娠率、流産率、染色体異常の割合にも年齢に応じた変化が生じます」と説明すると、多くの方から冒頭の言葉を頂戴します。

(中略)

卵子の秘密

胎児の卵巣の中で卵子の元になる細胞は分裂し700万個ほどに達します。その後減少が始まり、思春期以降卵子としてできあがり月に1個が排卵されます。先に述べたように20歳の時の卵子卵子として完成するのに20年かかり、40歳では40年かかり、エージングによる変化を免れないということをご理解ください。特に35歳以降その変化が現れ、40歳以降は加速度的です。

卵子ができあがるまでに時間がかかればかかるほど、不都合が生じる可能性が高くなります。具体的には、染色体の数の異常が生じやすくなります。その結果着床しにくくなる、あるいは着床しても流産する確率が高くなります。

(中略)

リプロダクティブヘルス

リプロダクティブヘルスあるいはリプロダクティブライツという言葉を知っていますか。「女性は自分の産みたい時に産み、産みたくない時には産まないことが当然の権利である」(1993年カイロ宣言)ということです。男女共同参画社会は女性の活躍の場を広げ、女性が輝く社会が日本の未来を明るくします。

しかしながら、20代、30代に思う存分仕事で活躍していると、結婚、妊娠、出産が遅くなる傾向は女性の有職率を含めた統計からも明らかです。諸外国の中には女性の有職率が出生率に影響を与えていない国もありますが、日本の現在の社会体制の中では、有職率の増加は、出生率の低下に関係しているように思われます。

リプロダクティブヘルスをめぐる日本の問題をまとめると次の二つに集約されます。一つは、年齢とともに妊娠しやすさは低下し、染色体異常や流産などのリスクが上がるなど性や生殖に関連した基本的事実が十分知らされていない教育の問題です。もう一つは、社会で活躍、輝く間、結婚や出産が後回しにせざるを得ない、言い換えれば働きながら安心して妊娠、出産、育児ができにくいという社会の問題です。

リプロダクティブヘルスを守る切り札が生殖医療と言うこともできますが、時間との戦いでコロナ禍でも不要不急とは言っていられないという考えを示しました。

卵子凍結を考える

時間は戻せませんが、止めることは可能です。それは凍結技術です。最初にお示ししたように、日本のARTで生まれる子どもの90%は凍結胚によります。凍結により胚の機能は何年、何十年も保つことができます。この技術は卵子精子についても応用できることがわかっています。医学的には次に示すがん生殖という分野が開けてきています。

(中略)

厚生労働省は2021年4月からがん生殖に助成制度を取り入れ、早速各自治体が東京都若年がん患者等生殖機能温存治療費助成事業などの形で卵子凍結にも助成金を出してくれることになりました。がん治療に悩みながら取り組む女性の背中を押してくれるありがたい制度が開始されたことは喜ばしいことだと思います。

お気づきだと思いますが、卵子凍結は、加齢によって減少し妊娠する力が低下する卵子の機能を維持する手段としても有効であると考えられます。実際米国では、女性社員の福利厚生制度として卵子凍結費用の助成制度を導入する企業が多く、フェイスブック社、アップル社、グーグル社など枚挙にいとまがありません。

日本では日本産科婦人科学会が医学的適用のない卵子凍結は妊娠を先延ばしする手段として推奨できないとしています、しかし、日本生殖医学会は社会的適応による未受精卵子あるいは卵巣組織の凍結・保存のガイドラインを作成し、加齢等の要因により性腺機能の低下をきたす可能性を懸念する場合には、インフォームド・コンセントのもと未受精卵子あるいは卵巣組織を凍結保存することができるとしています。

女性活躍が国策の一つですが、働きながら妊娠、出産、子育てが安心できる体制が整っていない現在、結婚や妊娠、出産が後延ばしにされ、結果として不妊治療を必要とし、苦労する方が増えているのが現状です。様々な意見があることは承知しておりますが、リプロダクティブヘルスの観点から、卵子凍結に対する社会的認知を進めてもよい時期に来ていると言ってよいのではないでしょうか。