言語能力は道具を使った作業をすると向上する

言語能力を高めるには道具を使った作業が効くようです。フランスのリヨン神経科学センター(CRNL)で行われた研究によれば、言語の構文を理解する脳回路と道具の使用スキルにかかわる脳回路が共通であり、一方を練習すれば他方の上昇が起こった、とのこと。

複雑な構文を学習をしようと思っているなら合間合間に、道具を使った複雑な作業をすると、相乗効果が得られるかもしれません。

以下、(リンク)より転載。
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■言語能力と道具スキルは同じ脳回路が担当している

人類を他の動物と別ける要素として、古くから言語と道具使用の2つがあげられていました。

言語は複雑な情報交換を可能にし、道具は爪や歯では達成できない作業を可能にし、人類の生存と繁栄に大きく貢献しています。

ですが言語能力と道具スキルにかかわる2つの能力が、別個の脳領域から発生しているか、単一の領域から発生しているかは謎でした。

そこで今回、リヨン神経科学センター(CRNL)の研究者たちは、フランス語の構文を学んでいるときの脳の活動と、30cmの長いペンチを用いて板から細いクギ(ペグ)を抜いて穴に入れているときの脳活動をしらべてみました。

結果、両方の作業が同じ大脳基底核の一部を同じパターンで活性化させていることが判明します。

つまり人類の言語能力と道具スキルは、単一の神経回路から発生していたのです。

どうやら言語も道具も複数のパーツを適切な順番で配置する必要があるため、脳は同じ神経回路を使い回して運用していたようです。

ですが研究者たちは言語能力と道具スキルという、人類進化の秘密を解いただけでは満足しませんでした。

同じ回路から発生しているのならば、一方の練習で回路を強化すれば、もう一方の能力も連動して上がる可能性があったのです。

■道具の練習で言語能力が上がり言語の練習で道具の扱いが上手くなる

一方の練習によって神経回路の強化を行えば、他方のスキルも改善するか?

謎を解くため研究者たちは被験者を集め、言語テストの合間に、30cmもの大きなペンチで鍵型のクギ(方向性がある)を板から引き抜き、別の穴に差し込むという高い道具スキルを要する作業と、道具を使わず手を使って鍵型のクギを穴に差し込む簡単な作業をやってもらいました。

結果、道具を使って作業を行った場合はその後の言語テストの成績が30%伸びたものの、手を使ってしまった場合、成績の伸びは15%に留まりました。

道具の使用で大脳基底核の脳回路が効率的に動くようになり、結果として同じ脳回路の働きに依存する言語能力が上がったと研究者たちは結論付けました。

さらに今度は逆に、道具使用の合間に、複雑な構文を学習した場合と簡単な構文を学習した場合が比較されました。

するとこちらは複雑な構文を学習した後に、より道具スキルの上達が起きました。

以上の結果は、言語能力と道具スキルが同じ大脳基底核にある神経回路に依存しており、一方の練習で神経回路を強化すれば、他方の能力も上昇することを示します。

一流の数学者が一流のバイオリニストであったり、プロの運動選手が外語大の学生よりも巧みに英語を話せたりと、ある分野に熟達している人が別の分野でも高い技能をもつことが現実の世界でも知られています。

このような一芸が多芸に通じるのも、多芸の根元が本業と同じ脳回路を使っているから可能なのかもしれません。

■本業の地力をあげるには他分野に手を出すといいかもしれない

今回の研究により、言語の構文を理解する能力が道具を使うスキルと同じ大脳基底核にある神経回路を発生源にしていることが示されました。

言語能力も道具を使う能力も、異なる意味をもつ単語や異なる物体を適切な順序で組み合わせるという本質が同じであり、脳は両方の能力を単一の神経回路の使い回して実行していたのです。

つまり人類を動物とへだてる真の能力は、言語や道具といった具体的な項目ではなく「異なる要素を順序良く組み合わせるという抽象的な能力」であると言えるでしょう。

また他方の訓練でもう一方の上達が起こるという仕組みが、他の幅広い分野にも適応されるならば、さまざまな分野のスキルを身に着けるという一見して寄り道に思える方法は、実は地力を底上げする最短ルートなのかもしれません。

もし現在、打ち込んでいることに行き詰まりやスランプを感じているなら、他分野に(もちろん高度で複雑なもの)に手を伸ばしてみると、状況が打開されるかもしれません。

 

植田正治