マスクは子どもに害? 米国で根強い「有害論」の現在地

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 この数週間で、米国のいくつかの州がマスク着用義務を解除する計画を相次いで発表し、規制緩和のドミノ倒しが始まっている。米国の新型コロナウイルス感染対策の中でも、学校でのマスクの着用義務は、政治的立場の異なる人々が特に激しく衝突してきた論点だ。
 親や教師の中には、マスクは子どもの呼吸を妨げたり、社会性や情緒の発達を遅らせたり、不安を与えたりするので有害だと主張する人々もいる。だが専門家らは、こうした懸念には科学的根拠がないと指摘する。

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●マスクは社会性の発達を阻害する?
 子どもは生後間もない頃から周りの人の顔を見ている。そうすることで、まずはポジティブな感情とネガティブな感情を区別できるようになり、やがてそれに応じて自分の行動を調整する方法を学ぶ。
 マスクで顔の下半分を隠すことが、そうした能力に影響を及ぼすことは確かだ。2021年5月に心理学の専門誌「Frontiers in Psychology」に掲載された論文は、3歳から5歳までの子どもは、マスクをしていない人の写真に比べ、マスクをしている人の写真から感情を読み取るのは難しいことを明らかにしている。
 しかし、エール大学小児研究センターの児童精神医学・心理学教授であるウォルター・ギリアム氏は、この研究は静止画を使っている点で限界があると言う。「私たちは人を目玉だけで認識しているわけではありません」。子どもたちは、相手の歩き方や、声の調子、手ぶりなども感情を読み取るための手がかりとしているが、「この研究では、そうしたものがすべて取り除かれています」
 ギリアム氏は、2020年12月23日付けで学術誌「PLOS ONE」に掲載された別の研究を挙げ、子どもにとってマスクをしている人の感情を読み取る難しさは、サングラスをしている人の感情を読み取るのと同程度だということが示されていると説明する。
 なお、これらの研究は特定の成長段階でのものであり、子どもは機会さえ与えられれば時間の経過とともに課題に適応できるようになることを忘れてはならない。「子どもたちはすぐにマスクをした人の感情も読み取れるようになるでしょう」とギリアム氏は言う。「子どもの能力をもっと信じてあげましょう」
 ギルバート氏も、マスクの着用が子どもや青少年の社会的成長を妨げる兆候はないとした上で、マスクは彼らが学校に行くことを可能にし、その成長を支えていると主張する。2021年12月20日付けで学術誌「Frontiers in Public Health」に掲載された論文をはじめ、この2年間で、マスクの着用の義務化がクラスターの発生数を減らし、休校を防ぐのに役立っていることを示す証拠が集まっている。

●マスクは心の健康を損なう?
 学校でのマスク着用の義務化は子どもの心の健康にとって有害だという意見もあるが、専門家によれば、証拠はその逆を示唆しているという。ギルバート氏は、コロナ禍が子どもたちの心の健康に及ぼした悪影響について、最も顕著な兆候はパンデミックの初期に現れたと話す。当時、リモート授業を受けていた子どもたちは、登校できず、仲間と一緒に過ごせないことで、不安や抑うつのレベルが高まったのだ。
 エール大学のギリアム氏とマレイ氏がパンデミックの初期に懸念していたのは、学校や保育施設が休校・休園することによる、子どもと親の精神衛生への悪影響だった。そこで両氏は、こうした施設を閉鎖させない最も効果的な戦略を探ることにした。
 2020年5月、彼らは全米50州の6654人の保育士を対象に、ソーシャルディスタンスの保持、症状のチェック、マスクの着用など、施設でどのような感染対策をとっているかを調査した。それから1年後、これらの施設が休園したかどうかを追跡調査した。
 その結果、2歳以上の子どもにマスクの着用を義務づけていた保育施設が閉鎖を避けられた割合は、義務化していなかった施設より13%高かった。論文は2022年1月27日付けで学術誌「JAMA Network Open」に掲載された。
 両氏はこの研究について、マスク着用と同時に旅行を自粛していたかどうかなど、他の要素をコントロールできていないという限界は認めている。それでも、学校や保育施設でのマスク着用の義務化は子どもたちの心の健康を害するのではなく、むしろ守ることができるという有力な証拠になっている。
 ギリアム氏は、子どもたちの抑うつや不安をマスクのせいにするのは、子どもたちを守りたいという自然な欲求からくるものだと理解を示す一方で、教室でのストレスの原因はマスクではないと考えている。「腕に痛みがあるとしたら、それは傷のせいであって、その上に貼った絆創膏(ばんそうこう)のせいではありません。マスクを着けさせるのは、新型コロナという子どもたちの心を確実に傷つけるものから彼らを守るためなのです」

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 学校でのマスク着用義務の解除の目安となる万能の指標はない。教室の広さや、窓を開けて換気ができるかなど、マスク以外の感染対策をどれだけとれるかは学校ごとに異なるからだ。マレイ氏は、科学的な証拠を考慮することや、新たな証拠が出てきたときに方針を変える柔軟性をもつことが大切だと指摘する。
「どこかの時点でマスク着用義務の解除を試す必要はあるでしょう。ただ、そのためにはしっかりと計画を練らなければなりません。子どもたちが保育を受けられなくなり、親があわてて代わりの安全な施設を探し回るような事態は、誰にとっても良いことではありませんから」

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(穴瀬博一)