「話を聞けぬ親」が子どもの問題行動の元凶

以下引用(リンク

□共感の大切さを身をもって知った原体験
まず、私自身の経験をお話しします。私は長年小学校の教壇に立ってきましたが、あるとき担任していたクラスの子どもたちと人間関係がうまくいかなかったことがありました。そのときは、朝起きるのもつらく、当然学校に行くのもつらく、さらに何といっても自分の教室に行くのが本当につらかったです。「もう先生を辞めてしまいたい」と毎日思っていました。
そんな中、とある日曜日に、契約していた生命保険の外交員さんが何かの用事で私の家にやってきました。用事が終わって、私は自分の悩みを話し始めました。誰かに聞いてもらわずにはいられなかったのだと思います。
すると、その人は、「大変ですね」「それは苦しいですよね」「つらいですね」「イヤになっちゃいますね」と共感しながら聞いてくれました。「こうしたらどうですか?」などというアドバイスはひと言もありません。ただひたすら共感的に聞いてくれたのです。私はため込んでいたものを次から次へと吐き出して、気づいたら2時間も経っていました。そして、外交員さんが帰ってまた1人になったとき、自分の気持ちがすごく軽くなっていることに気づきました。
問題解決の方法が見つかったとか、そういうことではないのですが、心の中にあった重苦しくどんよりしたものがなくなって、元気が出てきたというか、「何とかなるかも。もうちょっと頑張ってみよう」という前向きな気持ちが湧いてきたのです。そして、私は「ああ、話を聞いてもらって、わかってもらうだけで、こんなに気持ちが楽になるんだ」と気づいたのです。これは、私が初めて共感の大切さを身をもって味わった原体験です。
次は知り合いの養護教諭から聞いた話です。ある中学生が友達とのトラブルについて母親に相談しました。ところが、悩みを少し話したところで、母親は「大丈夫だよ。こうすればいいじゃん」と励ましとアドバイスを始めました。それで、その中学生は、「そうじゃなくて、これこれこうで……」とさらに説明を続けました。すると、言いたいことを半分も言わないうちに、また母親が「じゃあ、こうすればいいよ。大丈夫。がんばりなよ」と励ましとアドバイスを始めました。
それで、中学生は「この人に何を言ってもムダだ。ぜんぜん話を聞いてくれない」と感じて話をやめました。そして、翌日の放課後、保健室に来てその愚痴を養護教諭に話したのです。その子は友だち関係のストレスと母親に対する不満で爆発寸前だったそうです。
養護教諭は、「大変だね。そういう人間関係は苦しいね」などと共感しながら聞いてあげました。すると、その子はだんだん笑顔になり、1時間ほど話してから「お腹がすいた」と言い残して元気よく帰っていったそうです。それからは、その中学生は養護教諭を慕うようになり、廊下で会うとうれしそうに話しかけたり、時には保健室に来て手伝ったりするようになったそうです。
この母親のように、親や先生というものは共感が苦手です。まず励まし、アドバイス、指導が先にきてしまうからです。もちろん、励まし、アドバイス、指導が全てダメというつもりはありません。子どものために必要なこともありますし、それで救われることが多いのも事実です。
でも、初めに共感がないままいきなり励ましたりアドバイスしたりしてしまうと、相手は「この人は私の話を聞いてくれない。私がどんなに大変かわかってもらえない。そんなに簡単な話じゃないんだよ」と感じて、心を閉ざしてしまうのです。

□アドバイスや指導はたっぷり共感してから
大事なのは順番です。アドバイスや指導はたっぷり共感してからにしたほうがいいのです。具体的にいえば、「大変だね」「イヤだね」「疲れるね」「苦しいね」「悲しいね」「寂しいね」などの言葉が大切です。こう言ってもらえるだけで、相手は心を開いて素直な気持ちになることができます。
たとえば、姉が妹をたたいて泣かしたとき、「妹を泣かしちゃダメでしょ」「だって妹が私のおやつ取るんだもん」「言い訳しない。もうたたかないって約束しなさい」「イヤ」「1週間おやつなしだよ」「ヤダ、ヤダー!!」という展開になりがちです。
そうではなく、「どうしたの?」「だって妹が私のおやつ取るんだもん」「おやつ取られたの?」「そうだよ。この前だって取られたんだよ」「え、この前も?」「そうだよ。いつも私のおやつ取ってくる」「いつもなの? あなたも大変だね」などと、まずは子どもの言い分を聞いてあげましょう。すると、子どもは「私がどんなにイヤな気持ちでいたかわかってくれた」と感じて、親を信頼する気持ちが高まります。そこで、「でも、たたくのはなしだよ」と言えば、子どもも素直な気持ちで受け入れることができます。
また、たとえば、子どもが「今日は疲れた。宿題やりたくない」と言ったとき、「何言ってるの。どんどんやらなきゃダメでしょ」「わかってるよ。うるさい」「なんだ、その言い方は! さぼってないでさっさとやりなさい」「あ~、ますますやる気なくなった」「そんな怠けもんでどうする!」などとなってはいけません。
そうではなく、まず「大変だね」と共感してあげれば、「そうだよ。授業が6時間目まであって、そのあと部活やって、帰ったら宿題だよ」「あんたも大変だね」「あ~、疲れた」「お疲れさん。中学生も大変だ」「ほんとだよ。なんとかしてほしいよ」という和やかな展開になりえます。子どもは、自分の大変さを親にわかってもらえたことで、多少なりとも気持ちが軽くなります。そうすれば、しばらくして自分からやり始めるかもしれません。
もし、どうしても心配なら、「そうは言ってもやらないわけにいかないから、今のうちに半分だけでもやっておく?」など、ハードルを下げて促してもいいかもしれません。はじめに共感的な会話が十分なされていれば、子どもも素直な気持ちで受け入れやすくなります。
とにかく、日頃から「まず共感」を大事にしてほしいのです。アドバイスや指導など自分が言いたいことはその後です。そのようにしていれば、子どもは親を信頼するようになります。「お母さん・お父さんは話を聞いてくれる。私のことをわかってくれる。私は認めてもらえている。大切にされている。愛されている」という気持ちを持つことができます。これがすべてであり、これがないところでは、どんな指導もしつけも教育も無意味です。

 

 

 

 

穴瀬博一