「話を聞けぬ親」が子どもの問題行動の元凶だ。助言よりも共感、ただそれだけでいい。

リンク


■共感の大切さを身をもって知った原体験

まず、私自身の経験をお話しします。私は長年小学校の教壇に立ってきましたが、あるとき担任していたクラスの子どもたちと人間関係がうまくいかなかったことがありました。そのときは、朝起きるのもつらく、当然学校に行くのもつらく、さらに何といっても自分の教室に行くのが本当につらかったです。「もう先生を辞めてしまいたい」と毎日思っていました。

そんな中、とある日曜日に、契約していた生命保険の外交員さんが何かの用事で私の家にやってきました。用事が終わって、私は自分の悩みを話し始めました。誰かに聞いてもらわずにはいられなかったのだと思います。

すると、その人は、「大変ですね」「それは苦しいですよね」「つらいですね」「イヤになっちゃいますね」と共感しながら聞いてくれました。「こうしたらどうですか?」などというアドバイスはひと言もありません。ただひたすら共感的に聞いてくれたのです。私はため込んでいたものを次から次へと吐き出して、気づいたら2時間も経っていました。そして、外交員さんが帰ってまた1人になったとき、自分の気持ちがすごく軽くなっていることに気づきました。

問題解決の方法が見つかったとか、そういうことではないのですが、心の中にあった重苦しくどんよりしたものがなくなって、元気が出てきたというか、「何とかなるかも。もうちょっと頑張ってみよう」という前向きな気持ちが湧いてきたのです。そして、私は「ああ、話を聞いてもらって、わかってもらうだけで、こんなに気持ちが楽になるんだ」と気づいたのです。これは、私が初めて共感の大切さを身をもって味わった原体験です。

(中略)

■アドバイスや指導はたっぷり共感してから

大事なのは順番です。アドバイスや指導はたっぷり共感してからにしたほうがいいのです。具体的にいえば、「大変だね」「イヤだね」「疲れるね」「苦しいね」「悲しいね」「寂しいね」などの言葉が大切です。こう言ってもらえるだけで、相手は心を開いて素直な気持ちになることができます。

(中略)

たとえば、子どもが「今日は疲れた。宿題やりたくない」と言ったとき、「何言ってるの。どんどんやらなきゃダメでしょ」「わかってるよ。うるさい」「なんだ、その言い方は! さぼってないでさっさとやりなさい」「あ~、ますますやる気なくなった」「そんな怠けもんでどうする!」などとなってはいけません。

そうではなく、まず「大変だね」と共感してあげれば、「そうだよ。授業が6時間目まであって、そのあと部活やって、帰ったら宿題だよ」「あんたも大変だね」「あ~、疲れた」「お疲れさん。中学生も大変だ」「ほんとだよ。なんとかしてほしいよ」という和やかな展開になりえます。子どもは、自分の大変さを親にわかってもらえたことで、多少なりとも気持ちが軽くなります。そうすれば、しばらくして自分からやり始めるかもしれません。

もし、どうしても心配なら、「そうは言ってもやらないわけにいかないから、今のうちに半分だけでもやっておく?」など、ハードルを下げて促してもいいかもしれません。はじめに共感的な会話が十分なされていれば、子どもも素直な気持ちで受け入れやすくなります。

とにかく、日頃から「まず共感」を大事にしてほしいのです。アドバイスや指導など自分が言いたいことはその後です。そのようにしていれば、子どもは親を信頼するようになります。「お母さん・お父さんは話を聞いてくれる。私のことをわかってくれる。私は認めてもらえている。大切にされている。愛されている」という気持ちを持つことができます。これがすべてであり、これがないところでは、どんな指導もしつけも教育も無意味です。


■頑張るエネルギーの源になるもの

実は、このようなよい親子関係をつくることは、親たちが思っている以上に大切です。共感を土台にしたよい親子関係ができると、子どもは元気が出てきて、勉強でも運動でも頑張るエネルギーが湧いてきます。また、心が満たされるので、きょうだいにも友達にも優しく親切な対応ができるようになります。そして、大好きな親に心配をかけるような危険なことや悪いことはできなくなります。

反対に、親子関係が悪化して、子どもが「私は認めてもらえていない。あまり大切にされてない。愛されていないんだ」と感じている状態だとどうなるでしょう? 頑張るエネルギーなど湧いてきませんし、兄弟や友だちとよい関係を築くことも難しくなってしまいます。さらに悪化すると、「どうせ私なんかどうなってもいいんだ」という自暴自棄の気持ちすら出てきてしまうこともあります。こうなると、心のブレーキが壊れて非行に走りやすくなるということもあります。

(中略)

これは、つまり、親たちに共感の姿勢がなかったということです。反対に、「○○しなきゃダメだろ。なんで○○しないんだ。そんなことじゃダメだ。何度言ったらできるんだ。言い訳しないでまず謝りなさい」などの否定的な言葉が多かったのだと思います。親たちはみんなわが子を愛する気持ちはあるのですが、指導やしつけが前面に出てしまうと、こういう否定的な言葉でしかり続けてしまうことが多くなります。

共感の言葉は人間関係をよくする究極の言葉です。職場でも家庭でもあなたの周りの人に「大変だね」という言葉をかけてあげてください。人間はみんな大変でやっと生きている人がほとんどです。「大変だね」と言ってもらえるだけで少しは救われます。その人の力になりますし、同時にあなたとその人との人間関係は間違いなくよくなります。

 

 

 

 

高橋謙太